さよならクモくん改め「輪廻の歌。」

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ある所にとてもとても
一人ぼっちの少年がおりました。
毎日学校から帰っても遊ぶ友達もいません。
そうです彼は転校生で
二か月前に引っ越して来てから
まだ遊べる友達がいないのでした。

お母さんは心配し
「良太は誰か友達を作らないと」
そう彼をせかしますが
マイペースの良太は
「うんそのうちいつか」と言って
テレビゲームをやりながら
うわの空で返事をするばかり。

ある夜お母さんがパートの仕事が遅くなり
「ごめん良太先に寝ていてね」と
電話があり「うんわかった」と言ってみたものの
何となく一人で寝るのが嫌で
布団も敷かずにうつぶせで漫画を読んでいると
視線の端っこで動く黒い物体があり
思わず「ひっ」と手を引っ込めましたが
よくよく見ると一匹のクモでした。

「薄気味悪いやつめ」
夜のクモは不吉だと何処かで聞いた気がして
良太は嫌な気持ちになりましたが
それでも追い払う事もせず
目障りなクモを目で追い掛け
スマホ検索をしてみると
「へええ徘徊するクモか」と
勿論徘徊なんて言葉普通の四年生は知りませんが
昨年亡くなった同じ団地に住んでいたおばあさんが
夜歩き回ってよく娘さんに叱られていて
おかあさんが「嫌ね徘徊グセだって」と漏らしていたので
良太はそのクモが何となく
おばあさんの生まれ変わりのような気がして
テレビのアニメに出て来るお年寄りと同じ
「琴恵さん」と言う名前で呼ぶことにしました。

琴恵さんはいつも気まぐれに現れ
すれすれのところで潰しそうになってびっくりしますが
日に日に愛着もわいていつの間にか良太は
独り言のようにそのクモに話し掛けるようになりました。

「琴恵さん今日はご飯食べたの」
「昨日は母さんに内緒で隣の街まで出掛けてみたよ」
一寸だけ明るくなった良太を見てお母さんは安心しましたが
まさかクモに話し掛けているとは知らずに
「誰かと電話でもしてた?」「ううん何でもない」と
良太は襖を閉めて思わず「ふふ」と笑ったりしました。

それから間もなく良太にもやっと習い事の友達が出来て
毎日カードゲームをやったり公園で遅くまで遊んでいると
流石に夜は眠くなりクモの事も忘れがちになっていましたが
いつものように布団に潜り込むと
机のヘリを歩いている琴恵さんを見付けました。
「あなたってやっぱ面白いね。一寸カニに似てるしね。」
そう話し掛けているとピョンピョンと後ずさりし
クモは押入れの陰に消えて行き
そのまま良太は琴恵さんの事を忘れてしまいました。

良太は18才になり家を出る事になりました。
就職先の寮に入る為に「いつでも連絡してね」と言う
母親に「ああ」と素っ気なく挨拶をして
そのまま電車に飛び乗りました。
寮は二人部屋でしたが、もう一人入る筈の新人が
家庭の事情で就職を辞退する事になり
当面は一人部屋で過ごす事になりました。

カーテンの隅に動くものがあって見ると
其処には一匹のクモの姿がありました。
もうずっと忘れていた者に対する懐かしさから
思わず手を伸ばしそうになりあっと手を引っ込めます。
「流石にもう名前と言う年でも無いしな。」
するとその夜に夢の中に黒い着物を着た
女の人が現れました。
「私はあの時名前を付けて貰ったクモです。」

はっと目覚めると朝になっていました。
その時良太は気付いたのです。
忘れている事は実は忘れていなかった事。
ただ心の隅にいつも飼っていてひょんなきっかけで
姿を現し思い出の中に連れて帰ってくれる事を。

良太は地元の女友達にその話をすると
「やだ、マジ理解出来ないキモい」と笑われて
もう一生この話を誰にもしてやるかと思いました。
そして足早に寮に戻ると電気を付けて探しました。

「お~い僕の琴恵さん今日は何処にいるの?」


おわり